原因や重症度によって日射病、熱痙攣、熱疲労、熱射病に分けられます
毎年、夏になると国内や海外旅行、スポーツイベントの観戦などで長時間外出する機会が増えますが、それに比例して熱中症で病院に搬送される子供や高齢者も増加します。
熱中症のうち、うだるような炎天下の元で長時間運動したり、頭頚部を直射日光に照らされるなどして起きるのが「日射病」です。
日光の直射を受けることにより、皮膚の血管が拡張したり、運動で筋肉への血流が増すため、相対的に循環血液量が不足して、吐き気や嘔吐、立ちくらみ、脱力などの症状が現れます。病名から受けるイメージとは異なり、体温はそれほど高くならず、脈は速くなり血圧は正常かやや低下する傾向にあります。
日射病の治療では、風通しのよい日陰などに移動して、横になり、スポーツ飲料で水分を補給することが大切です。スポーツ飲料を持ち合わせていないときは、水500mlに食塩5gを溶かしたものがよいでしょう。最近は日射病対策として、「OS-1(オーエスワン)」などナトリウムを含む経口補水液も市販されているので、これらでも構いません。
海外旅行で日射病になった場合は、水分の補給が大切だからといってとっさに生水を飲ませてしまうことがありますが、海外で生水を飲むのはNGです。今度は生水に当たってしまい、下痢などで脱水症状を引き起こす可能性があります。
高温多湿のなかでスポーツや仕事をして、発汗が激しいときに、水分の補給だけを行って、電解質(特に食塩)を補っていないときに頻繁に起きるのが、頭痛や眩暈、吐き気、嘔吐、筋肉痛を伴う痺れなどが現れる「熱痙攣」です。発汗は激しく、皮膚は温かいことが多く、時には蒼白となります。循環血液量が不足することにより脈が速くなったり、血圧が下がったり、ハァハァと呼吸が速くなったりすることもあります。
熱痙攣の症状が疑われたら、経口摂取が可能ならば慎重に食塩水を与えます。医療機関では生理食塩水や乳酸リンゲル液などで十分な輸液を行ないます。数日以内に回復するケースがほとんどです。
熱痙攣と同様に、高温多湿の環境下で汗をたくさんかいて脱水と電解質が損失された状態で起きるのが次に紹介する「熱射病」の前段階である「熱疲労」です。暑さによる皮膚の血管拡張、運動による筋肉への血流の増加によって、循環血液量が絶対的あるいは相対的に低下することで起きます。初期には、口の渇き、眩暈、頭痛、倦怠感などが現れ、徐々に頻脈となり血圧が低下して意識障害を伴うこともあります。
熱疲労は循環不全の状態ですが、これが進行して臓器障害を引き起こすまで至った状態が、ニュースなどでも採りあげられることが多い「熱射病」です。発症当初に見られた発汗は停止して、体温は40度を超えて、昏睡や痙攣など深刻な症状が現れます。
中枢神経系では、意識障害、痙攣、髄膜刺激症状などが現れます。呼吸器系では、代謝性アシドーシスに伴う過換気状態になりますが、進行とともに、肺水腫、肺うっ血を呈し、低酸素、高二酸化炭素となってきます。循環器系では最初は末梢血管が拡張して血圧低下、頻脈などが現れますが、進行するとともに心拍出量は低下します。時に心電図変化も認められます。
それに伴い腎機能障害が合併し、ヘモグロビン尿、DIC(播種性血管内凝固症候群)などの原因が加わって急性腎不全となることも少なくありません。DICは血管内皮の障害、肝障害が原因で著しい出血傾向を呈するため、多臓器不全となり、死亡率がとても高いことで知られています。治療は、蒸発熱による冷却を行うとともに、集中治療で各臓器の不全に対処します。